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第116話 誘拐

Author: 黒蓬
last update Last Updated: 2025-06-15 06:00:06

昼食を終えて少しゆっくりした後は、再び街中を適当に散策していた。

すると町の一角に市場のような場所があった。

近くの人に尋ねてみると、ここはフリーマーケットとして開放されている広場で誰でも自由に取引ができるようになっているようだ。冷やかしや珍品目当てなど目的は様々だが、観光客も多く結構な人で賑わっていた。

商人としては、こんな光景を見てしまうとどうしても気になってしまう。

一通り見て回ったところで俺は二人に断りを入れて、自分も露店を開くことにした。

「せっかくの骨休めでしたのに。でも、やっぱりアキツグさんはそういう姿が似合いますね」

『最近は色々あったけれど、やっぱり根は商人ってことよね』

「そ、そうか?まぁなんだかんだで歴は長いからな。二人は気にせず楽しんできてくれ」

「分かりました。ロシェさん行きましょうか」

『えぇ。アキツグ、さっきも言ったけど一応気を付けてね』

「あぁ、分かってるよ。そっちもな」

取引を終えて宿に戻ろうとしたところで、違和感に気づいた。

ロシェの気配がしばらく前からずっと同じところに留まっているのだ。

少しくらいなら景色を眺めていたり、軽食を摂っていたりということもあるだろうが、そう考えるには時間が経ち過ぎていた。

気になった俺はロシェの気配の方へ向かうことにした。

気配を追っていくと辿り着いたのは建物の隙間にできた小道の様な場所だった。

ロシェの気配は、未だにその十字路になっているあたりに留まっている。近づいてもこちらに気づく様子もなく、近くにカサネさんの姿もなかった。

(おいおい。嘘だろ?あの二人も警戒はしていたはずなのに、一体何があったんだ?)

一応俺は警戒しながらロシェに近づいて行った。当たりに人の気配はなかったが、二人に何かをした存在がまだ隠れている可能性もあったからだ。

しかし、そんな警戒も空しく何事もなくロシェの側まで行くことができた。

ロシェは姿隠状態のまま気を失っているようだった。揺り起こすと少しして目を覚ました。

『う、くっ、ここ・・・は?』

「大丈夫か?何があったんだ?」

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